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2015年、最も心に残った13冊の本:その2(5〜8冊目)

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2015年、最も心に残った13冊の本:その1(1〜4冊目)

のつづきです。

 

所属している出版社の本も入ってしまっているので(我が子のように好きでごめんなさい)、
ステルスマーケティングにならないように該当書籍には「」を付けてあります。

 

 

2015年、最も心に残った13冊の本:その2(5〜8冊目)

ジョージィの物語――小さな女の子の死が医療にもたらした大きな変化』著:ソレル・キング 

ジョージィの物語――小さな女の子の死が医療にもたらした大きな変化

医療事故の発生件数は、交通事故の4〜5倍とも言われます。
毎日ジャンボジェット機が墜落するのと同じくらいの方が、医療事故で亡くなっているそうです。

著者のソレル・キングさんは、医療事故によって1歳半の娘を失いました。
防げたはずの死だと、病院側を強く憎み、本人も人生の泥沼にはまっていってしまいます。
「娘の命を金に変えることはできない」と、示談金も拒み続けます。

しかし、転機を迎えます。

その示談金を使って医療安全を推進する財団を設立するのです。
そして、憎しみを正の力に変えて、病院側を巻き込みながら、

「責任者の追求ではなく、悲劇をもたらすシステムを変える」

と奮闘し始めます。
そして、娘の死のことを勇気を持って話した講演DVDを数千の医療機関で上映することをはじめ、

・患者側も緊急の対応を要請できる〈早期対­応チーム(RRT)〉
・入院患者の医療参加を支援する〈入院日誌(ケア・ジャーナル)­〉
・医療従事者の心理ストレスを軽減する〈医療者への支援(ケア・フォー・ザ・ケアギ­バー)〉プログラム

など、様々な仕組みを開発・導入していくのです。

人は、深い喪失感や憎しみから「立ち直ることができる」だけではない。
同じような悲しみを減らすための「変革者」にすらなれる。
ソレルさんはそのことを、憎んでいた相手との協働さえしながら力強く証明してくれます。
そんなソレルさんは、『ウーマンズ・デイ』誌で「世界を変える50人」にも選ばれています。

今、何かの悲しみの底にいる人に、そっと渡したい本です。

 

問題解決のジレンマ: イグノランスマネジメント:無知の力』著:細谷功

問題解決のジレンマ: イグノランスマネジメント:無知の力

副タイトルの「イグノランスマネジメント:無知の力」にピンときて読みました。
「無知の活用」は、ドラッカーが最後に取り組もうとしていたテーマだったそう。

この本を見て最初に思い浮かんだのは、
ノーベル平和賞を受賞したこともあるムハマド・ユヌスです。
貧困層の女性を対象にした無担保の少額融資(マイクロファイナンス)によって多くの人の貧困脱出を実現した方ですが、
これは従来の銀行から考えたらとても非常識な方法でした。
それでも行動に移せたのは、「銀行の仕組みを知らなかったから」だとユヌスは語っています。
「知らない」からこそ「常識外れ」な良作を打てる。
これは「無知の力」と言えないでしょうか。

この本では、

(1)既知の既知:問題が発見&解決された状態
(2)既知の未知:問題が発見されているが、解決はされていない状態
(3)未知の未知:問題が発見されていない状態

に分類して、(2)に挑む「問題解決者」と、(3)に挑む「問題発見者」には、
必要な価値観や能力が180度異なる、ということを説いています。
前者を「アリ」、後者を「キリギリス」に例えて違いを説明していくのがユニークです。

うまくまとまっていてグイグイ読んでしまいました。
ただ、「無知の扱い方」という点では少し弱かったので、
「無知」の技法 Not Knowing』という本を合わせて読むのがオススメです。
こっちの方が「『知らない』って強みになることがあるんだ」ということが、
起業家・芸術家・冒険家などたくさんの事例から実感できます。

・無知を生かす力
・アンラーニング(いったん学習したことを意識的に忘れる)

この辺は追いかけてみたいテーマです。

 

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき』著:フィリップ・ジンバルドー

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき

2015年に読んだ本の中で一番分厚い本です。
800ページくらいだったか。

かつて、学生に看守・囚人役を演じさせる「スタンフォード監獄実験」というものが行われました。
この模擬監獄実験は、当初2週間続行するつもりでした。
しかし、「役割」を越えて彼らが本物の看守・囚人になり切ってしまい、
恐るべき虐待が始まってしまいます。
その結果、たった6日間で中止されてしまいました。

著者は、この実験の発案者であった心理学者のフィリップ・ジンバルドー教授です。
前半では実験内容が日付ごとに詳細にまとめあげられています。
そして、イラクのアブグレイブ収容所で起きた、
アメリカ兵によるイラク人捕虜への虐待事件を事例に出しながら、
人間悪が引き出される共通項は何かを暴いていきます。

この本が主張しているのは、
残虐な悪行に手をかけてしまうのは、
「気質的に問題のある一部の個体」ではなく、
「どこにでもいる普通の人間」であるということです。
カギは「個人の気質」にではなく、
彼らをそのような行為に傾けさせる背景にある「状況」、
そしてそれらの状況を生み出している「システム」にこそある。
「一部の腐ったリンゴ」が問題なのではなく、
「腐った樽」が問題なのであり、
「腐った樽の製造工場」が問題なのであると。

政治哲学者のハンナ・アーレントは『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』の中で、
「ユダヤ人問題の最終的解決(ホロコースト)」において主導的な役割を演じたアドルフ・アイヒマンが、
「いかに凡庸な人間だったか」を説いています。
スタンフォード監獄実験やアブグレイブ刑務所の事例のみに留まらず、
条件が整ってしまえば「プチナチス」はどこにでも生まれ得るのではないか。
それがたとえ「普通の人たち」の間であっても。

「自分にできること」を見つめることは大切です。
でも同時に、「自分が陥り得ること」にも謙虚に向き合わなければならないと強く感じました。
「自分だけはそんな風になるはずはない」と思う人ほど、
それがいかに脆く崩れるかをこの本を通じて知って欲しいです。

逆に、最終章では「凡人も英雄になり得る」という希望も提示されます。
悪が陳腐で陥りやすいものなのであれば、
「善良」もまた、条件が整えば獲得できるものだということを忘れてはいけません。

 

ソングライン 』著:ブルース・チャトウィン 

ソングライン (series on the move)

伝説の旅人ブルース・チャトウィンが、
アボリジニの世界創造の道「ソングライン」の謎を追った旅の記録です。

アボリジニの先祖たちは、
一つひとつの岩、一つひとつの草木を「歌う」ことによって、
それらにこの世界における「存在」を与えていったと言われています。
その「歌の道」が網の目のようにオーストラリア中に広がっていて、
彼らは歌を辿っていくことで旅することができるそうです。

なんとも素敵な世界観で、すっかり魅了されてしまいました。

この幻想的な世界観と対照的にチャトウィンが多く描いているのは、

・白人によるアボリジニの権利の侵害、
・(逆に)行き過ぎた擁護運動、
・絵画を中心としたアボリジニとの取引

など、欧米社会介入の現実的な姿です。

僕が思うチャトウィンの魅力は、
なぜか多くの人の口を開かせ、真実を語らせてしまうことです。
口達者なコミュニケーション能力、という感じではなく、
それを超えてもっと、読者目線から見てもチャーミングなんです。
強い探究心が相手をそうさせてしまうのか。
とにかく不思議な魅力です。

この本のもう一つの魅力は、後半部から挟まれ始める「チャトウィンのノート」の記録です。
彼の永遠のテーマは「なぜ人は放浪するのか」
この謎を追うべく、彼は多くの著作の引用や洞察をノートにメモし続け、
このノートは「パスポートよりも大事」だと言っていました。(何冊かなくしたそうですが)
その内容が公開されているので、ここを読むだけでもたまらないです。

ちなみにそのノートとしてチャトウィンが愛用していたのが「MOLESKINE(モレスキン)」です。
一度は製造業者が亡くなり、後継者も工場を売り払ってしまったことがあったのですが、
ゴッホ、ピカソ、ヘミングウェイにも愛されたこの伝説的なノートは1997年に蘇りました。
すっかり影響されて、僕も今使っています。

チャトウィンの目を通じて、
気だるい暑さ、飛び交う砂塵、鬱蒼としたブッシュの中をぜひ旅してみてください。

 

 

【つづき】

2015年、最も心に残った13冊の本:その1(1〜4冊目)
2015年、最も心に残った13冊の本:その3(9〜13冊目)

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