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ウルトラマラソン挑戦記〈2〉:星に手を伸ばせば

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ここ最近、午前中の体調がものすごく悪い。
誰かが僕の藁人形に5トンくらいの重りを付けて呪っているのかもしれない。
人物を特定できないほど、謝りたい人たちは沢山いる。

なので、この場を借りて。
まとめて、ごめんなさい。
あらゆる罪を、まとめて。

今すぐ重りを外し、束ねた藁をほどき、
牛の餌にでもしてあげてください。
そちらの方が世のため、少なくとも牛のためになります。

よろしくお願いします。

 

冗談抜きに今日も、最近の天候のように重々しい朝だった。
朝食もほとんど喉を通らない。

100kmマラソン当日は5:00(もちろんAM)スタート。
本当は今のうちから早朝の練習をしておきたいところなのだけれど、
それも叶わず、お昼過ぎに体調が落ち着くのを待っての練習となった。

来週末が40kmの挑戦なので、今日は3週間ぶり(そしてまだ2度目)の30kmランと決めていた。

「甲州街道」まで片道6kmを往復する【コース・K】を2往復と、
「小竹向原」の交差点まで片道3kmを往復する【コース・K2】1往復。
合わせて30km。

たまたま【K】が二つになってしまったけれど、
【K2】は名前がかっこいい。
標高8,611メートル、カラコルム山脈にある、エベレストに次ぐ世界で2番目に高い山。
名前の由来は、

「高度、2番目」

の略。
…んな訳はなく、

「Karakorum No.2」

カラコルム山脈測量番号2号ということらしい。
こういう無機質なネーミングは、時にとてもかっこよく響く気がする。

 

 

【コース・K】往路(1回目):0〜6km

散歩中のプードルに襲われそうになったこと以外は何の問題もなく、甲州街道との交差点へ到達。

近くにあるミニストップは補給所としてとても良い。

徐々に「飲食物を補給した直後の走り方」も学んでいかなければいけない。
今のところのお気に入りは、

・レモン&チーズパウンド(273kcal):124円(税込)
・キッコーマン 調整豆乳(200ml):97円(税込)

のセット。
パウンドは程よくしっとりしているので飲み込みやすく、
豆乳は量的にちょうど良い。
ゆっくり時間をかけて食べて、食後はあまり体が上下に跳ねないように走れば、
危惧している腹痛はまったく起こらない。

ちなみにこのお店、ホスピタリティも驚くほど良い。
前回利用した時は店員さんがマラソンの応援までしてくれて、

「ご馳走様」

と口にしたコンビニは人生で初めてだった。

 

【コース・K】復路(1回目):6〜12km

10km地点前後で、身体が最高に軽くなる。

「フロー状態」「ゾーンに入る」「ランナーズハイ」
様々な呼び方があるけれど、おそらくそれに近い状態が来るのはだいたいこの辺り。

今は気晴らしのランニングではなくトレーニングで走っていることもあり、
走っている時は基本的に身体と会話している。

・腕の角度は上がりすぎていないか
・足首を固めすぎていないか
・身体が上下に跳ねていないか
・爪の痛みが始まっていないか
・上から吊るされているように背筋は伸びているか
…etc

でもゾーンに入ったような状態になると、ほとんどそういうことも考えなくなる。
周りが静かになっていって、身体はまったく疲れず、
体の輪郭の中と外の境界がなくなっていくような感覚になり、ただただ進んでいく。

その時は、その状態に委ねるだけ。
余計なことは考えない。
「ずっとこのまま走れたらいいのに」と思いながら、
すべきことは、その流れを断ち切らないようにすることだけ。
乗っかった流れから外れないように。
(でも、集中が乱れるので、意識し過ぎもダメ)

練習で困るのは、信号待ちがあること。
せっかくの流れが…

 

【コース・K】往路(2回目):12〜18km

この辺から、やはり今日はコンディションが良くないなと感じ始めた。
3週間前の30kmランの時は、身体の軽さがこの距離の区間が一番維持できていた(コース違うけれど)。
雨もパラパラと降り始め、iPhoneをコンビニのビニール袋の中にしまう。

登り坂に差し掛かると、「少し足が重くなっている」というのをかなりはっきり感じた。

中野の祭りが始まったようで、神輿が担がれていた。
あちこちの店頭に酒やつまみが現れ始め、焼き鳥の甘ダレの匂いにそそられた。
交差点の横断歩道で、神輿を眺めながら運転する車がカーブしてきて轢かれそうになった。

楽しそうに担がれている神輿の隣で、担架で運ばれていく自分を想像してみる。
かなり嫌だな…

 

【コース・K】復路(2回目):18〜24km

「もう無理」ではなく、「もうやめたい」と思い始める。
体力的にはまだ問題なかった。
一番の問題は、

「飽き」

味気ない見慣れたコースを何回も通るのは、だんだん苦痛になってくる。
知っているコースの利点は、目印を見つけられること。

「もう少しで折り返し」

など、感覚的に把握できるので、ペースメイクにもなる。

でもやはり、デメリットの方がずっと多い。
楽しくない(笑)

それもメンタル方面のトレーニングだと考えるしかない。

モチベーションが下がってきた悪影響か。
信号待ちで止めていたランニングアプリを再開させるのを忘れ、
700メートルほど走ってしまっていた。

これは地味にストレスになるミス。

 

【コース・K2】往路(1回目):24〜27km

【コース・K】の2往復が完了した時点で、よっぽど「もうやめてやろう」と思っていた。
天気も悪いし、体調も良くないし、走り終わったらやることもあるし、もうええやん。

でも、「やると決めたこと」をやらない癖を、今から付けたくなかった。

「敬遠は一度覚えるとクセになりそうで。」

と、『タッチ』の上杉達也も言っている。
敬遠は戦略の一つでもあるだろうけれど、怠惰はただの甘え。
もっとタチが悪い。(『タッチ』とかけているわけではない。)

ということで、水分補給だけして、【コース・K2】の往路へ。

元々、小竹向原へ向かう【コース・K2】の方が先に開拓した道だった。
何年も前から、ハーフマラソンの練習はいつもこの道を使っていた。
でも信号が多過ぎて難を感じていたところ、甲州街道を目指す【コース・K】を開拓。
今ではそっちがメインになっているので、
残念ながら小竹向原は【2】となった。
うちは年功序列ではないのだよ、残念ながらね。

とはいえ、【コース・K】の3回目の走行は嫌だったので、
気分転換も込めて【コース・K2】に切り替えた。

ハーフマラソンの練習と違い、100kmを意識しているのでペースはずっと遅い。
ペースが変われば信号運も変わる。
昔はあれだけ信号で止められていたのに、今日は「青」ばかり連続で続いた。
これは思わぬ喜ばしい誤算だった。

往路でいう2km地点に、少し急な坂が一つある(行きは下り、帰りは上り)。
疲れに気づくのは、上りよりも下りのことが多い。
上りは乳酸的なきつさなので、気合でなんとかなる。
でも疲れている時の下りは、踏ん張りが利かず膝が曲がらないのでちょっと危ない。
昔から膝が悪い身としては、下りの方がきつい。

今回のこの下りも、「あぁ、だいぶキテるな」という実感がわいた。

その後すぐに階段の上りがあるのだけれど、いつも思う。

「どうせ上るのなら、下るな。」

と。

でもそれは、小さき人間の我儘に過ぎない。
地形の方が大先輩だということを忘れている時は、謙虚さに欠けている。

謙虚さを失うと、大抵悪いことが起こる。

 

【コース・K2】復路(1回目):27〜30km

「これでラスト!」と思うと、決まって一気に身体がきつくなる。
この法則は何なのか。

小竹向原の交差点で折り返し、せっせと上ってきた階段を下り、例の坂をせっせと上り、
もう少し進んだおそらく28km地点で、事は起こった。
(カウントされなかった幻の700メートルを入れた場合)

強い脱力感と目眩に襲われ、これはさすがに足を止めないとまずいと思い、中断。

エネルギーが足りなくなってハンガーノックみたいな感じなのか、
それとも昨日変えたばかりの乱視用コンタクトのせいなのか、
止まっても目眩が消えない。

ポケットに忍ばせておいたウイダーの塩分入りタブレットをボリボリと2粒食べて、
コカコーラの自動販売機で500mlのペットボトルを買い、
後先考えずに一気に飲み干した。

ストレッチを長めに入れて、15分ほど休んだものの、
同じペースで走り続けるのは不可能と判断。

何かあった時に電車やタクシーで帰れるように、
ジッパー付きの小さなプラスチック袋に2000円入れて走るようにしている。

ついに使うときが来たかとも考えた。
だけど、28kmまで数字を貯めておいて、
30にさせずに終わるのはあまりにも口惜しい。

これが登山だったら、たとえ山頂手前でも絶対に戻らなければいけないと思う。
でも幸いなことに、ここは近所の隣駅。

どれだけペース落としてもいいから、30kmまでは行こうと決意。

ちなみに、あの幻の700メートル分が引かれているので、正確な表示は27.3kmだった。
ここでこの700メートルが効いてくる…
本当ならあと2kmでいいのに、このボロボロの身体で2.7km走らなければいけない。

何を言っても始まらないので、ずるずると引きずるように足を前へ前へ進める。
「進む」というか、「削る」の方がイメージに近い。

残りの距離を、10メートル単位で「削って」いく。

この時は、チラチラとアプリを見ないことが大事。
疲れている時は、思っている進度からかなり割り引いて考えても、
それよりもさらに進んでいないもの。
メーターを見て受け取れるものは絶望感しかない。

これを俗に、『進度・bad』という。

今何キロ!?
そうね だいたいね〜

きついのは!?
そうね 大腿ね〜

…今日の僕の疲れ具合を推し量っていただけたらと思う。

 

700メートル余分に走らされることにはなってしまったけれど、
無事に30kmは走り終えることができた。

30km

最後は意地だけど、意地をなくしたら挑戦はできない。

 

 

 

以前、陸上をやっていた友人が言っていた。

30kmに、一つ目の壁がある。

ウルトラをやるのであれば、毎日10km走っててもダメ。
月に数回でもいいから、30km超えの練習が必要。

7月に少しずつ走り始めてから、順調に距離を伸ばしてきた。
でもやはり、ここで一つの頭打ちが来そうな気がしている。

10点のテストを30点にするより、
30点のテストを50点にする方が、
同じ20点でもずっと難しい。

これが60、70と進んで行くごとに、
上昇のペースは下がっていくと今から覚悟しておいた方がいい。

 

そう思うと、100kmの目標は今の自分には遠すぎると思う。

走れる距離が上達すればするほど、目標に近づけば近づくほど、
その難しさがわかって、かえって遠く感じてしまう。

 

でも、

かっこよく言えば、「もうやると決めた」から。
かっこ悪く、そして現実的に言えば、「もうお金払って申し込んでしまった」から。

やるしかない。

 

できると分かっている70を目指せば、
目標に達して70を手に入れられるかもしれない。

でも、

できないかもしれないけれど100を目指せば、
やっぱり届かなかいかもしれないけれど、
でも80を手にできるかもしれない。

星に手を伸ばせば、泥を掴まされることはない。
星に届かなくても、雲なら手に入るかもしれない。

そんなことを、誰かが言っていた。

 

挑戦とは、そういうことだ。
今やりたいのは、そういうことだ。

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