ある夏の日の爆買いの記録:13冊の本のこと

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財布に一枚のQuoカードが入っていた。どこでもらったものなのかはまったく思い出せない。「ラッキー!」と思いながら見てみると、えっ、3,000円分!?神の恵みか仏の慈悲か。迷いなく本に使おうと思い、炎天下も何のその、意気揚々と本屋さんへ。

お目当ての本は、税込み1,566円。残りのポイントを使って何を買おうかと、棚という棚を巡って物色。「もう一冊くらい」という思いから始まったものの、案の定欲しい本が多過ぎて止まらなくなる。2時間の滞在の末、13冊まとめ買いしてしまった3,000円のQuoカードごときでは収まりきらない出費…。でも、まあ、たまにはいいか。いいよね。

1日でこんなに買うのは、学生のときに漫画『サンクチュアリ』を12巻セットで買った時以来。「赤ん坊の重さは幸せの重さ」だと誰かが言っていたけど、13冊の本の重さも負けじと幸福な気持ちを与えてくれていると思う。

総重量、4kg。米か。

最近もはや活字を食べるような感覚にすらなってきているので、たしかにしばらく暮らせるだけの食糧を買い込んだ気持ちに似ているかもしれない。郵送対応もしてくれる本屋さんだったので、書店員さんも「えっ、お持ち帰りですか?」とちょっと焦っていた。それはもう、手にとってこれだけ読みたい気持ちになってしまったものを、郵送待ちなんて耐えられません…。深さのある縦長の紙袋を用意してくれたが、2段になってしまう。本が傷つかないようにと、段と段の間に厚紙を敷いてくれた。お手間おかけしました。

13冊、4kg、4,684ページ。幸福の極み…

これだけ一気に買うことは滅多にない。せっかくなので、どんな気持ちでそれぞれの本を選んだのか、記録しておこうと思う。

 

1. 『アフリカの日々』イサク・ディネセン著、河出文庫

アフリカの日々 (河出文庫 テ 9-1)

そもそもこれを買うことが目的だった。デンマーク生まれの著者(本名:カレン・ブリクセン)が、ケニアに持つコーヒー農園で過ごした日々が綴られていて、高い評価を受けている一冊。感性あふれる描写の数々に大期待。時間の流れが変わりそうな予感がしている。ずっと気になっていて、今月文庫化されたことをきっかけに読んでみようと思った。

 

2. 『半分のぼった黄色い太陽』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著、河出書房新社

半分のぼった黄色い太陽

史上最年少でオレンジ賞を受賞したナイジェリアの作家。1960年代に起きたナイジェリアの内戦・ビアフラ戦争を舞台に描いたラブストーリー。「外部から見たアフリカのイメージ(中略)とはひと味もふた味も違うアフリカ世界」という訳者あとがきの言葉から、気になっていた本。2段組500ページという文量から「そのうち…」と先延ばしにしていたけど、まとめ買いスイッチが入ったのでこのタイミングで。図らずとも、アフリカ本2冊とも版元が河出さんだ。

 

3. 『テヘランでロリータを読む(新装版)』アーザル・ナフィーシー著、白水社

テヘランでロリータを読む(新装版)

きっかけは、西加奈子さんの『i(アイ)』を読んでいる中でこの本が出てきたこと。

読者よ、どうか私たちの姿を想像していただきたい。そうでなければ、私たちは本当には存在しない。歳月と政治の暴虐に抗して、私たち自身さえ時に想像する勇気がなかった私たちの姿を想像してほしい。もっとも私的な、秘密の瞬間に、人生のごくありふれた場面にいる私たちを、音楽を聴き、恋に落ち、木陰の道を歩いている私たちを、あるいは、テヘランで『ロリータ』を読んでいる私たちを。それから、今度はそれらすべてを奪われ、地下に追いやられた私たちを想像してほしい。

この引用に出会って、これは読まなければいけないと思っていた。知識を得ることを制限され、とりわけ女性であるがゆえに自由が制限されていたイランにおいて、秘密の読書会の中で文学に触れる喜びはどれだけのものだろう。それを制限される息苦しさはどれだけのものだろう。

 

4. 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』J.D.サリンジャー著、新潮モダン・クラシックス

このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年 (新潮モダン・クラシックス)

サリンジャーの作品集。タイトル強烈。『キャッチャー・イン・ザ・ライ』がすごく好きで、なんと愛すべき主人公ホールデンくんが登場するという。しかも、有名な短編集『ナイン・ストーリーズ』の一話『バナナフィッシュにうってつけの日』のシーモア・グラースを語り手とした作品も収録。オールスターのスピンオフ感全開。これは楽しみ。そして今更気がついたことが…これまた好きな作品『フラニーとズーイ』に出てくるグラス一家にシーモアという名前のお兄さんがいるのだけど、あれはバナナフィッシュに出てくるシーモアのことだったのか!繋がっていたとは知らず…恥ずかしい。

 

5. 『星野道夫著作集〈1〉アラスカ・光と風 他』星野道夫著、新潮社

星野道夫著作集〈1〉アラスカ・光と風 他

基本的には、一つの話は一冊で読むのが好き。なのだけど、一人の作家の文章をずっと追っていく全集もチャレンジしてみたいとも思っていた。誰にしようかなと考えていたところ、探検家・星野道夫さんに思い至った。実はこの全集1巻は一度読んだことがあり、他にも写真集を何冊か読んでいる。そして、ものすごく惹かれている。短文、短文、で続くシンプルで心地よいリズムの文章で、達観した落ち着きと、少年のような心の動き方がどっちもあり、何より描かれる世界の壮大さに心打たれる。5巻まで、ぜひ読み通したい。

 

6. 『自由からの逃走 新版』エーリッヒ・フロム著、東京創元社

自由からの逃走 新版

「自由から逃れたい」という衝動。矛盾しているように見えて、ピンとくることでもある。ナチズム、全体主義に傾いていく時代に、この本が書かれた意味。まだ読んでいないからなんとも言えないけど、先日読んだオウム真理教(元)信者たちへのインタビュー集『約束された場所で』との関連で思うところがあり、このタイミングで読んでみようと思った。

 

7. 『カルピスをつくった男 三島海雲』山川徹著、小学館

カルピスをつくった男 三島海雲

この本の刊行記念で、ちょうど昨日著者の山川さんのトークイベントがB&Bで開催されていた(行けなかったのだけど)。もう一人のゲストが星野博美さんで、山川さんがもっとも影響を受けた作家だと知り、一気に山川さんにも興味がわいた。星野さんの『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』は、僕がこれまで読んできたノンフィクションの中で最高峰。こんな文章を書けたらな〜と憧れたりもしている人。イベントの紹介文に「自らの半径2mの取材対象から、時空を超える紀行を紡いだお二人」というかっこよすぎる文言があり、これはカルピスも読もう。カルピス飲みながら読もう。と思った次第。本屋さんで残り1冊だったから危なかった。

 

8. 『コンニャク屋漂流記』星野博美著、文春文庫

コンニャク屋漂流記 (文春文庫)

上述の星野博美さんの作品。読売文学賞、いける本大賞受賞作。漁師だった先祖の屋号がなぜか「コンニャク屋」という事実を受け、そのルーツを辿るノンフィクション。『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』も、習い始めたリュートとキリシタンの歴史がリンクして時空を超えた探求が始まっていく本。星野さんの探求物ならば、面白くないはずがない。しかもコンニャクって…もうそれだけで面白い。

 

9. 『切支丹の里』遠藤周作著、中公文庫

切支丹の里 (中公文庫)

小学校の頃、社会の教科書で「踏み絵」のことを学んだときの印象が強く残っている。信仰しているものを踏ませる残酷さ。死を選んででも踏まない人たちの気持ち。想像して、心臓がどきっとしたのを覚えている。あれからだいぶ時間が経って、星野博美さんの『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』に出会い、あの時代のキリシタンの歴史を知った。そのあと、ちょうど映画化のタイミングでもあったので遠藤周作さんの『沈黙』を読んだ。この本と映画からも、一記事割いて書きたいくらいの衝撃を受けた。最近では、長崎の潜伏キリシタン関連の世界遺産の話題が持ち上がり、あらためてこのテーマに触れてみたいと思っていた。で、この本は遠藤周作さんが隠れキリシタンの里を実際に訪れて取材した紀行文的記録集。気高く殉教した信者よりも、踏み絵を踏まずに棄教した人たちの気持ち(弱さ?)を強く描いてきた著者だからこその視点に触れてみたい。

 

10. 『人みな眠りて』カート・ヴォネガット著、河出文庫

人みな眠りて (河出文庫 ウ 10-2)

なんだか暗い話になってしまったので、明るそうな本を。名作『タイタンの妖女』の面白さで一気に惹かれ、SF的な世界の魅力に誘われてしまった。そんな作家カート・ヴォネガットの晩年の短編集の文庫版。発売はもうちょっと先かと思っていたら、もう並んでいたので迷わず。帯のコピーは「心が疲れた時は、ヴォネガットおじさんにお話を聞くことにしよう−−池澤春菜」。ヴォネガットおじさんはこの本にどんな世界観とユーモアを準備してくれているのか。楽しみ。

 

11. 『はい、チーズ』カート・ヴォネガット著、河出文庫

はい、チーズ (河出文庫)

隣に置いてあったんですよ、『人みな眠りて』の。まあ、手に取っちゃいますよね。ということで、ヴォネガットおじさん再び。さっきのが晩年の作品集で、こっちは初期作品集。「ヴォネガットの円熟期のような初期作品集である−−円城塔」、またしてもコピーがいい。絶妙な矛盾感。「バーで出会った殺人アドバイザー」「ペーパーナイフから現れた宇宙人」…初期の頃からテーマがぶっ飛んでる。こっちから読もう。

 

12. 『村上春樹語辞典: 村上春樹にまつわる言葉をイラストと豆知識でやれやれと読み解く』ナカムラクニオ/道前宏子著、誠文堂新光社

村上春樹語辞典: 村上春樹にまつわる言葉をイラストと豆知識でやれやれと読み解く

何で見たのか、「嫌いな男ランキング」的なもので「村上春樹を好んで読むような男」があがっていた気がする。この作家の中長編を全部2回も3回も読んでいる僕は「ふ、ふ〜ん」と強がりつつ受け流そうと努めている。面白いものは面白い。やめないぞ、負けないぞ。…そんなことはどうでもよく、作品に出てくる人・物・言い回し・メタファーをイラスト付きでパラパラと見て、頭の中にイメージしていた光景とのすり合わせができるのは楽しい。「あ〜この作品読み返したいな」というトリガーにもなるので、これを機にまた発表順に読み直そうか。そしてますます嫌われる男になっていくのか…やれやれ。

 

13. 『ランニング思考──本州縦断マラソン1648kmを走って学んだこと』慎泰俊著、晶文社

ランニング思考──本州縦断マラソン1648kmを走って学んだこと

「なんでわざわざ走るの?」「走って何かいいことあるの?」…うんざりするほど聞かれる質問だし、サッカーばかりやっていたころの自分も同じことを思っていた。「走るだけなのに何が楽しいの?」と。ところが宮古島100kmマラソンを経験して、走ることの魅力をズドーンと知ってしまった。とはいえまだうまく言語化できていない。そんな中で、「本州縦断マラソン1648km(!?)」の慎さんの言葉から学べることは多いはず。読むぞ〜走るぞ〜

 

 

以上、爆買いの記録。

書いてる時間あるならその分読めよ…と思いつつ、書いてみてよかったと思うことも。今読みたいと思っている本が、それぞれどう繋がっているのか、過去に読んだ本とどう関連しているのか、自分の興味・関心がどう進化してきたのか…書いてみて分かることが多かった。

「もう読んだ本」だけじゃなくて、「これから読みたい本」について書いてみるのも悪くない。本の効能は、ページをめくる前から始まっている。

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